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土の人として田代をあたためる。森健二郎さん。

地域を語る上でよく使われる、風の人と土の人。

人にも風の性と土の性がある
風は遠くから理想を含んでやってくるもの
土はそこにあって生命を生み出し育むもの
君、風性の人ならば、土を求めて吹く風になれ
君、土性の人ならば風を呼びこむ土になれ

玉井袈裟男(風土舎設立宣言)

「しっくりくる感じは土ですね。土で支えてさ、風の人たちが楽しくしてるのを見てるのが好きだなあ」

そうおっしゃるのは、錦江しごと図鑑4人目、森健二郎さんです。

森さんは、田代たしろ地区のガソリンスタンドに勤務しており、地域の音楽グループにも所属されています。
話が得意じゃないとおっしゃいつつも、田代という土地で暮らすことの豊かさについて語ってくださいました。

※錦江町は、旧大根占町おおねしめちょうと旧田代町が合併してつくられました。

居心地がいい地域

森さんは地元の高校卒業後、1年間鹿児島市内の専門学校へ通ってから実家に戻ったとおっしゃいます。
「(将来)特に何もすることは決まってなかったし、『何もしないんだったらちょっと仕事手伝って』って両親に言われて実家に帰ってきましたね。居場所があるんだったら、戻ろうかなって」

都会を目指して出ていく同級生が多い中、地元の田代に戻ることを決めた森さん。
田代が居心地よく、外に出たい思うことも全くなかったそうです。

「なんだろうね。元々出不精っていうのもあって。鹿屋とか鹿児島市にちょっと休みの日に出かけたりして帰ってくるんですけど、いつもの町が少し見えてきたら、やっぱりなんか帰ってきた感じがしてほっとするかな」

「大根占はコンビニもあるし。遅くまで開いてるお店もあるから便利だと思うんだけど、それがもし田代にあったらって考えた時に、(田代には)いらないかな。便利だなって思うんだろうけど、今の田代の感じが大きく変わるのはあんまり想像できない」

「でも最近できたケーキ屋さんは便利だ。徒歩数秒で美味しいケーキが買えるなんてね。あれは便利だわ」

また田代の心地よさについて、気にかける人が多いのかもしれないとおっしゃいます。
「この人は今どうしてるかなとか、地区全体じゃないとしても、あそこのおばちゃん、この前足痛そうだったけどどうだったかな、とかさ。そういう人が田代にいっぱいいるのかな」

心地よさの距離感

森さんのガソリンスタンドは、おじいちゃんとおばあちゃんの代から始まったそうで、居心地の良さは家族と一緒に過ごしていたからなのかもしれません。

「僕が今こうして仕事ができてるのは、おじいちゃんはじめ、家族みんなで築き上げてきたものがあるから。帰っておいでと言ってくれた両親にも感謝しています」

「おじいちゃんは結構無口で、寡黙に働いてて。おじいちゃんもおばあちゃんも2人とも三味線してて、ラジカセで三味線を聞きながら一緒に働いていましたね」

森さんのガソリンスタンドは、メイン通りにあり小中学生の通学路沿い。毎朝、子どもたちと挨拶を交わします。

「朝から小中学校の子が通るからさ、今日あの子通んなかったな、休みかな、とか。逆に店の中で書き物とかしてたら、こっちを小学生が見てくれるから。僕のことも気にかけてくれてるのかなって思ったりしますね」

「小学生なんて短パンで行くからさ。6年生の子なんか足が長くなってくるから短パンがどんどん短くなっていって」

「みんなだいたい知り合いっていうか、どこのところの子だって見守ってるから。そんなに話しかけるわけじゃないけど、ちゃんと遠くからでも見守ってる感じはするね」

程よい距離感で、それぞれを気にかけている雰囲気がある田代地区。
人口がどんどん減少して子どもも少なくなっていく現状がありますが、そうしたあたたかい雰囲気を残したいとおっしゃいます。

「どっかしらで、大人も子供も見守ってる雰囲気っていうか。挨拶するくらいとか、ちょっと気にかけてるとか、そういう距離感の空気が残ってたらいいかな。自分でも居心地がいいし、移住して住んでくれる人たちが居心地よくいられたら」

土の人として

森さんは、田代の人を中心に結成された吹奏楽グループでもドラムの担当として活躍されています。
「野球とサッカーしかしてなくて。音楽は好きだったけど吹奏楽に興味があったわけじゃないから、誘ってもらったことがきっかけで続いてるっていうのが不思議ですね」

「ギターも教えられる程でもないけど、小さな教室をしていて。今まで1人でやってたけど、教えてる人が弾けるようになるのも嬉しいです。前に出ることもあるけど応援してる方が性に合ってますね」


冒頭で引用した詩の続きには、こんな言葉が続きます。

土は風の軽さを嗤い(わらい)、風は土の重さを蔑む
愚かなことだ
愛し合う男と女のように
風は軽く涼やかに
土は重く暖かく
和して文化を生むものを
魂を耕せばカルチャー、土を耕せばアグリカルチャー

玉井袈裟男(風土舎設立宣言)

ご自身を土の人だとおっしゃる森さん。
まさに、地域に根を張りながら、周りの人にもあたたかい雰囲気を醸してらっしゃいます。

「朝起きて仕事して、家族と『今日も無事終わったね』とか話してご飯食べて、テレビ見てっていう時間。明日もまたっていう。そう思えるのは、豊かかな」

「変わらない日常が送れるっていうのはありがたいよね。 特別派手なことがなくても、そういう普通の毎日を過ごすことができるっていうことも大切なことだなって伝えたい。そういう幸せもあるもんね」


※編集後記※
希望ある町であるためには、その地域の寛容性がキーになるという調査があります。寛容性がどう育つのかは、そこに住んでいる人自身が幸福であり、地域に希望を持てているところが重要だそうです。
ご自身の幸せを味わいながら、町がこうあって欲しいと語る森さんは、まさにこれからの地域において大切な1人です。
日常を淡々と過ごしながら、誰かを見守ったり応援する生き方は、変化の激しい時代において難しいけれど大切なことなのだろうなと感じました。



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