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【錦江しごと図鑑】自然への探究は一生続く。 東顕さん

今回の錦江しごと図鑑、26人目は錦江町の山奥、照葉樹の森管理事務所所長の東顕ひがしあきらさんです。

大隅半島の南部に位置する稲尾岳いなおだけ木場岳こばだけ一帯の照葉樹の森は、自然環境保全地域、森林生態系保護地域などに指定される西日本最大級の照葉樹林帯です。

東さんは18年以上、森の保全活動や山登りなどのイベントを企画・運営されています。

照葉樹の森管理事務所兼、稲尾岳ビジターセンター

自然が大好き、と屈託なく笑う東さんは意外にも東京生まれ東京育ち。

「小学校の頃は調布市に住んでいました。平成たぬき合戦ぽんぽこの舞台にもなった多摩の森が近くて、夏になるとよくどんぐりの木にカブトムシやクワガタを採りに行って遊んでいましたね。住所は都会ですが、自然は近かったですね。大好きでよく通っていました」

昔から自然と触れ合う事が大好きだったよう。中学校になると多摩川を挟んだ川向かいの神奈川県川崎市へ引越しをします。

「学校ではすぐに周囲に溶け込んで、ここでもクワガタ採りに夢中でした。昼休みに採ったクワガタを筆箱に隠したんですよ。そしたら先生に見つかって、『何を隠したんだ!』ってバレちゃって。でも隠してるのがクワガタだから、『そっとしまっておきなさい』ってやさしく言ってくれました(笑)」

「そこは近くに防空壕がたくさん残っていて。穴はほぼ埋まってて入り口の上の方だけ見えてる。それを友達と一緒に掘って、誰が入るかジャンケンで決めたり。防空壕って穴の中で繋がってるから地図を作ったりして遊んでましたね。今では危なくてできない遊びかな」

照葉樹の森近辺で見られるアケボノソウ 花びらの中に目のような蜜腺(みつせん)が2つあるのが特徴

その後、東京で一度は就職するも自然への想いは断ち切れません。

「就職したし、お金も溜まったので、念願だった屋久島に行くことにしたんです。最初の時は2泊くらいだったかな?登山経験もないし、安全な行程で進んで、目的だった白谷雲水峡には行けたんですけど、縄文杉を見ることはできなかった」

「2回目が次の年。悲願だった縄文杉も見ることができました。この時には自然の近くに移住したい気持ちが強くなっていましたね」

「移住するために東京の池袋で開催されていたI・Uターンフェアに相談に行って。林業に挑戦したいと思って鹿児島の担当者の人に相談したら、『危ないからやめときな』って言われて。運動部でもなかったし、青白かったから無理だと思われたんでしょうね」

それでもご自身で熟考された結果、移住を決意。ハローワークで見つけた桜島での林業の仕事に応募しました。

「松の木を食い荒らすセンチュウという虫がいるのですが、カミキリムシがこの幼虫を運んでくる。こいつを駆除する仕事でした。東京から面接に行って、1年だけの期間限定だけどいい?って言われたけど、大丈夫ですって答えて採用されました。ずっと続けるかどうかはわからなかったけどとりあえず自然の中にいける!って」

ただし、林業は時には危険を伴う大変な仕事です。

「今でも覚えているんですけど、仕事の初日は鬱っそうとした藪の中で切り株が3つあるからメジャーで計ってきてって言われて。道なんかないような藪の中へ飛び込んで。で、次の日にはこれが使えないと話にならないだろうってことでチェーンソーを持たされて。『筋がいいね』なんて褒められましたね。当時はおだててるのかな、くらいに思ってました」

「1年が経過した頃、100人の臨時雇用の中から3人だけ残す、という通達があり、運よくその3名に残れたんです。後で聞いた話なんですけど、初日に入った藪はベテランでも入りたくないような藪だったようで(笑)。ただ、僕は小さい時から道なき道を行っていたので何の苦もなくて。あとは、チェーンソーは本当に筋がよかったみたいです。『音がいい』って」

そんな林業での仕事の傍ら、休日には自然に関わる資格を取得するために森林ボランティアに積極的に参加します。

「県知事認定のグリーンマスターや森林インストラクターという資格を取得しました。植樹やしいたけの原木のコマ打ちをやったりしましたね。年齢層が高くて、当時は最年少だったんじゃないかな」

そんな日々を4年ほど過ごした同じ頃、照葉樹の森が県の指定管理制度の対象に。自然保護に関する資格を保持する東さんに管理事務所勤務の話があがり、引き受けることになりました。

「普段の仕事は、事務仕事と草刈りや、山の中の整備、あとは登山会等のイベント準備ですね。山登りのコース取りを考えたり、特定の場所の立ち入りの許可を取ったり。台風が通ったあとなどは、風倒木ふうとうぼく(風で倒れた木)が山道を遮ったりするので、チェーンソーで切って処理する作業も。林業時代に桜島で練習していたのが活かされています」

森林の保護活動は重要な仕事です。

「稲尾岳は山全体が国の天然記念物に指定されている場所です。保全のために2年くらいかけて大隅の山々をあちこち回って登山道を整備しています。倒木などで寸断された登山道を放っておくと木同士のツタが絡み合って、徐々に元々の自然の姿に戻ってしまいます」

自然の中には食べられる植物も。

ムカゴ

「これはムカゴです。1時間くらいかけて採取すると両手にいっぱいに採れます。これを入れて炊いたムカゴのご飯は本当に美味しいんですよ!塩を少し入れて、蒸らす時に料理酒を香り付けに入れれば香りがさらに引き立つんです。一度味わってみてほしいです」

自然の中に入る時には多少の知識を持っていくともっと楽しい、と東さんはおすすめします。

オオサンショウウオの写真 錦江町おさんぽナビより

「地域ごとの固有種とかもあって、このオオサンショウウオは大隅の、しかもこの稲尾岳一帯でしか生息していない種なんです。少し北上するとまた違うサンショウウオがいるんですよね」

動物や昆虫を飼育する時の注意点についても教えていただきました。

「この前は、鹿屋市の川でオオウナギを捕まえたんですよ。1mくらいの。自宅でウナギを飼っているので、オオウナギも飼ってみようかな?って思ったんですけど、調べたら最大2mくらいになるから、かなり大きな水槽が必要になって、さらに設置するための床の耐久性が必要になる。水も循環させなければならない。結局諦めて川に放流しました」

「また、クワガタの雌は一度の産卵で30~50匹の卵を産みます。個別にカゴを用意してあげると長生きするのですが、集団で一つのカゴに入れると喧嘩をはじめてしまって、寿命が短くなる。腐葉土を餌として食べるのですが、マットなども必要になるので、同じく飼うのあれば、最後まできちんと責任が持てるのか、調べてからにしてほしいと思います。まず、寿命を調べるところから」

「ある地域で捕獲した動物や昆虫を他の地域へ行って離すこともやめてほしいと思っています。『国内外来種』という言い方をするんですが、その地域の生態系を崩してしまう。ある地域で採れたクワガタなら、その地域へ戻すのが自然への配慮です」

たまに開催されるイベントでは子供たちも多く訪れるそう。

「昆虫好きな子供は熱心に話を聞いてくれるし、質問の内容がマニアックだったりしますね(笑)。普段、昆虫や植物について周囲に答えられる大人が少ないので、生き生きと質問してくれます。自然を好きになってくれて、大事にしてくれたら嬉しいですね」

照葉樹の森には多様な植物が生息している。東さんは疑問に思ったことを少しずつ調べて知識を蓄えているそう

「鹿児島は自然が好きだったら、本当に遊ぶところにはことかかない場所ですね。人口が増えたり、観光客のみなさんには来てほしいところですが、自然を好きになってもらって、大事にしながら楽しんでほしい」

「自然への探究は一生続きますね。ちょっと知識を付けたら、ここで終わり、というものではないので」

参考リンク)鹿児島県 照葉樹の森公式ホームページ

<編集後記>

最初は少しほんわりした印象の東さんでしたが、お話の中から強い信念が伝わります。

一緒に照葉樹の森の入り口近辺まで歩く道中、さまざまな植物の知識を教えて下さいました。深く多様な知識で、お話も本当に面白い。

どうやってその知識を身に付けたのですか?とお尋ねすると、興味を持って、写真を撮って、後で調べて、という地道な努力を淡々と続けられている。そうなんだって思う事が多く、調べ物も楽しいです、とのこと。すべての原動力は自然への愛情が為せるわざ。

ここまで何かに夢中になれたら幸せですよね。