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【錦江しごと図鑑】 自然と向き合うことで自分が強くなる町。 喜鉢大司さん

 
錦江しごと図鑑、8人目は花瀬はなぜ地区に住む、モダンアーティストの喜鉢大司きはち たけしさんです。

以前は、東京の IT 関連の会社で管理職を勤めていた喜鉢さん。
一風変わった独特な作品を作られますが、どういうコンセプトをお持ちなのでしょうか。普段、あまり聞くことができない、作品づくりに対する想いをうかがいました。
 
「アートにはじめて触れたのは大学時代。大阪芸術大学で芸術を専攻していました。制作活動は熱意を持って取り組めましたが、卒業の時期になって進路を決める必要が出てきました」
 
「作品を通じて、人に影響を与えたい、何かを表現する必要はあるけど何をすればいいのか分からず、結局その時は普通の会社で働く選択をしました」
 
その後、約20年。さまざまな会社で一般職や技術職などを経験した後、管理職に。そんな安定した会社員の職を離れて、どうして錦江町でアーティスト活動をするようになったのでしょうか。



 「仕事を通じて知り合った友人が大隅半島に住んでいまして『一度遊びに来てください』というお誘いをいただいていました。都合がついて錦江町に初めて遊びに来たのが2022年の12月のことです」
 
「実際に来てみて、まず、東京近郊では絶対に目にできない雄大な景色に圧倒されました。大地の持つエネルギーが途方もない。その恩恵を受けている地元のみなさんの目が輝いている。人として生きていると感じました」
 
「東京や都市部では、みんな一様にどこか焦りがあったり、生き急いでいる。または、目的もなくうつろな空気の人もたくさんいて。何か目標を持っていなければ人間として失格であるかのような雰囲気が漂っていました。私もその中の一人でしたが、ずっと『アート活動はやりたい』と心の片隅で思っていました」
 
そんな中、錦江町の未来づくり専門員でフルート奏者の伊藤愛さんが企画していた「錦江町アーティスト・イン・レジデンス」を知り、ちょうど会社を離れていたタイミングもあって、錦江町で活動することに決められたそうです。
 
「景色に加えて、鶏のお刺し身は絶品ですね。東京の高級な居酒屋さんでしか見たことがなかった鳥刺しが、スーパーで安価で手に入る。しかもそれが最高に美味しい。この鮮度とこの値段で味わえるなんて奇跡だと思います」


作品づくりと風土

錦江町に来てから作風が定まって来たとのことですが、コンセプトについておうかがいしていきます。
 
「こちらに来てから知ったことですが、吾平山上陵が近くにあることや、大隅半島の歴史や風土が、作品作りになんらかの影響を与えているようにも思います。学生時代から、神道的な考えをベースに作品を制作していましたので、何かの縁を感じていますね」
 
「作品のコンセプトは”reincarnation”(リインカネーション)。少しわかりやすく言うと自由自在な死と再生。その人がその人自身を何度でも変化させられないだろうか?というテーマです」
 
お話がだんだんと芸術的になってきました。
 
「現代の社会では、唯一の正しさや答えが存在していて、この平等な世の中であれば、誰にでも成功のその機会は巡ってくるはずだと考えられています。でも、社会が決めた成功の形に本気で取り組める人はまれな存在だと思うんです」
 
「人は本来みんな個性がバラバラ。それぞれの幸せの形があってもいいはずです。その人自身が本当によく考え、多くのことを経験していく中で、その人だけの幸せの形が出来あがっていく。最初に決められた絶対の幸せの形があるわけではないように思っています」

喜鉢さんの愛猫まろん(間龍)。 なお、本名はピカソ並に長いそうです。


移住生活とリスタート

錦江町での生活は、自分自身の人生を見直すきっかけにもなったそうです。
 
「現在の花瀬地区に移り住んでからは、友人との対話を最低限に絞り、終日誰とも会わず、作品の制作のみを行う日々を半年ほど過ごしました。社会や世間から距離を取ることで、それまで大切にしてきた都会での価値観をすべて洗い直すことができたように思います」
 
そんな錦江町で過ごす日々も、もう1年以上が経過しています。町の印象はどのようなものでしょうか。都会との違いなども教えてくれました。
 
「都会の通勤電車では、どこか正気を感じられないような人が散見されることもありますが、彼らには生きるために必要な明確な理由が欠落しているように感じられました」
 
「反面、僕はこの町でそのような方に出会ったことがないんです。みんな生き生きしている。都市部とは大違いで、それは、自然と隣り合って生きてきたあかしではないかと思っています」
 

町との関わり

昨年の夏には、錦江レゲエ浜祭りにも参加されました。

「レゲエ祭りではステージ横に作品を置かせていただいたのですが、年に一回開催されるお祭りに、町外からもアーティストが参加して錦江町のみなさんと作り上げている感じが素晴らしかったです。コロナの影響で4年ぶりの開催とのことでしたが、熱量が高く、刺激をもらいました」

「今は、この錦江町と町のみなさんから刺激を受けて作品を作っています。自分で作っていても驚くことがあるくらい、面白い作品になってきました。」
 
現在は花瀬地区にお住まいです。時には、大変な台風や突然の大雨にも見舞われ、カルチャーショックを受けたそうです。
 
「いま住んでいるのが、もともと長い間空き家だった古い家ということもあるのですが、大量の蟻が毎朝発生してげんなりしたり、台風で道路が寸断されたり、蛇口から水が出なくなったり。それまで経験したことがないことも多くて」
 
「そんな日々の出来事に、自分で工夫して、準備をしておいて、対応する必要がある。こうした経験が心身ともに人を強くさせるのでしょうね。何もかも『あるのが当たり前ではない』ということに、やっとこの年で気づくことができました」
 


都会ではできない経験を積みたいという目的もあって、この4月初旬はお茶の農家さんでアルバイトも経験されたそうです。
 
「繁忙期だったので、お茶畑にシートを被せる作業を、天気に関わらず毎日続けていました。特に雨上がりに晴れると湿度が急激に上がって。ふだん身体を使わない僕には体力的にキツかったですね。
 でも、続けていくうちに、ふと自分が地球の一員として、大きなライフサイクルの一環として認められたような感覚になりました」
 


最後に、アート活動を通じてやりたいことや今後の展望をうかがいました。 

「日本や世界の社会課題は想像力不足だと考えています。 何もかもがすでに存在している社会。このような社会の中では欠落がない。困らないから、工夫もしないし、準備もしない。これでは創造性は育まれません。
 若い人たちには自分の人生を自分の力でクリエイトする力を身につけていってほしい。そう願っています」 

「そのためには、彼ら彼女らの心の琴線に触れることが重要。一瞬でその人の価値観をガラッと変えてしまうような、そんな威力のある作品を作りたいですね」



 *編集後記*
普段はあまり多くを語らない喜鉢さん。
作品の制作に向かう態度は真剣そのもので、情熱的な面を見せてくださいました。 一言では言い表せない、独特な作品を作る過程では本当に多くのことを考えていることがわかり、一度のインタビューでは時間が足りないくらいでした。

今回、作品づくりと地域に対する深い考えを聞くことができ、あらためてアートの世界とローカルとの可能性を感じています。



▽喜鉢大司
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