【錦江しごと図鑑】 「好きこそものの上手なれ」 仕事も趣味も探究を楽しむ。 君付忠和さん
錦江しごと図鑑、9人目は田代川原地区の獣医師、君付忠和さんです。田代地区の未来を見据えながら、”楽しむこと”をモットーに動物病院の運営や吹奏楽団のリーダーを手がけていらっしゃいます。仕事に趣味に日々はつらつと取り組まれる君付先生に、獣医師として働く上で大切にしていることをお聞きしました。
錦江町のドクタードリトル、君付先生
「南種子では断らないように、どうしたら治せるか、飼い主さんの要望に答えられるかを考えるようにしていたよね。そういうことを考えるのが好きなんだろうね。一歩一歩目標に近づけて、完璧に治すにはいくつ問題があるか洗い出していく。それで道を探していくというのは習ってきたよね」
看護師をされていたお姉さんの影響で医療に興味を持った君付先生は、北里大学を卒業後、鹿児島の農業共済組合へ就職。南種子・伊佐・大隅地域で牛を専門に獣医師として様々な動物の治療と研究に打ち込んでこられました。そして平成5年、地元の錦江町(旧・田代町)にて君付動物病院を開院し、今日も町内の牛を中心に犬猫といった動物の診療に取り組んでいらっしゃいます。なんと金魚やハリネズミの治療をしたこともあるそう。幅広い動物を診ることができるだけでなく、ひたむきに行われる診療が的確ということもあり、今でも患者さんが絶えません。
君付流、獣医という仕事
「難しい病気の動物のときには、農家さんと一緒に落ち込むの。治れば一緒に喜ぶ。一緒にやると、農家さんは牛の状態がわかって、病気に対して農家さんなりのことをする。僕も僕なりのことをする。それで治れば嬉しい。そうすると信頼関係ができていって。それが楽しみなの」
君付先生は飼い主さんや畜産農家さんとのコミュニケーションを大切に、日々診療に取り組んでいらっしゃいます。先生自身も、仕事を通して様々な方と出会うことを楽しみにしているそうです。治療の腕ではもちろん、持ち前の軽やかな話しぶりと探究力で動物も人も元気にしてしまいます。確かな技術とコミュニケーション力に裏打ちされた安心感に、「ここに来ると先生が面白いよね。何かパワーを感じて動物たちも大人しく診療させてくれるのかもしれない」と患者さんがお話くださったことが印象的でした。
「転勤で溶け込める自分が育ったのかな。おかげでいろんな人と話ができる」と君付先生。様々な出会いを経験されたからこそ、広範囲に深い知識に辿り着けたのだと続けます。
「南種子では臨床研究会で僕が習ってきたのと違うやり方を教えてくれるでしょう。そこに一つ一つの病気を当てはめていくと、プロトコルができてくる。和牛、乳牛、馬も。それができあがったらノートを持って診療に行ったね。伊佐にいた頃は牛を診療する先生方と仲良くなるうちに小動物もやってみないかと。共済組合では産業動物、日曜日には小動物を診てた。楽しみでね。そしたらまた違う世界だった。音楽に例えたら、ポピュラーだったのがクラシックに。こんなにすごい技術があるんだってのめり込んでしまった」
吹奏楽が教えてくれた仕事の楽しみ方
何事もとにかく楽しく打ち込むことが君付先生の流儀です。先生は、獣医に限らずどんな仕事にも共通することがあると学生時代から続けられている吹奏楽を引き合いに教えてくださいました。それは、楽しんでやるからこそ夢中になれるということ。そして、夢中のその先に見えてくるものがあるということでした。
「難しい楽譜は1小節ずつ音符を分解して、毎日同じ練習をやっていくうちにできるようになる。そういうことを学生時代に経験してきて、獣医師になったときにもやっぱり同じことだった。難しい動物が診察に来たら、血液検査をしながら文献を読んで1小節ずつ解決していく。だから、いろんな人に聞くこと、分析することが大事よね。仕事以外でも楽しむのが大事。研究も楽しんでいるから、仕事も楽しいのよ」
高校時代は「吹奏楽が楽しみだったから、勉強は二の次」だったそう。一心不乱に取り組んだ音楽の経験は錦江町の吹奏楽グループJoy Soundsの結成にもつながっています。「間違えても、上手じゃなくてもいい。音楽が好きな人ならだれでも、一緒に演奏して楽しみたい」との思いから立ち上げたJoy Soundsは先生の心の拠り所でもあります。
「やっぱりJoy Soundsだろうね。そこがあるから頑張れるし、楽しくやってるから、それが一番かもしれない。間違えても、まわりがカバーする。分からないところは誰かが教えてくれる」
なにより、田代が大好き
「山にある植物、朝靄、その周辺にある家ね。田代というところは四季を通して本当に表現が豊かなところだよね。生まれた場所でもあるし、慣れてるし。それに、自分の発想が発揮できる場所だからここが好きなのかもね。自由になるためにはやっぱり自分の発想が大事だし、自分が頑張らないと生活していけない。それがいいところだと思います」
田代が大好きな君付先生の軽やかさや何事も楽しんで取り組む姿勢は、知った場所だからこそないものねだりをするのではなく、よく観察して身近なものを慈しむことから始まっているのかもしれません。
*編集後記*
テレビで消滅可能性都市という言葉を知りました。そこには錦江町の表記もあり、たくさんの村やまちがなくなってしまうのかと思うと、胸がヒュッとしました。大好きなまちやそこに暮らす人たちの「楽しい」を守るために、何ができるだろう。楽しいことや好きなことをまずは続けてみる。小さく勇気を出してステップを上がってみる。そんな小さな動きが広がると「もっと楽しい」に変わるのかもしれません。少しづつ、君付先生のように軽やかに人や動物の居場所を守れるようになれたらいいなと思います。