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【錦江しごと図鑑】餌から育てて大隅のお肉の魅力を発信する。 大野 徹さん

錦江町しごと図鑑、13人目は地域活性化センター神川を拠点にトウモロコシや麦、大豆、飼料用米など濃厚飼料作物の生産をされている大野徹おおのとおるさんです。
大隅のお肉に魅力を感じて、2021年に錦江町へ移住。豚を餌から国産で育てるプロジェクトに勤しむ中で感じる大隅のお肉の可能性について、お話を伺いました。

福岡から錦江町へ
もともとは福岡で保育士として働いていたといいます。
畜産や農業と関わりのないお仕事に勤められていたのに、なぜ錦江町で飼料生産を行うようになったのでしょうか。

「保育士を辞めたあとは子ども食堂を行うNPO法人を設立・運営をしながら生活をしていました」

「今の仕事はNPOの関係で知り合った大学の先生の紹介です。錦江町で餌から完全国産の豚を育てるプロジェクトする会社が設立されて、若くてチャレンジ精神のある人を探していると」

「畜産の餌を自分たちで作って、その国産の餌を使って豚や牛を育てるというプロジェクトが、まず面白そうだったこと。それと大隅の豚肉を使った製品がすごく美味しかったので、製品が出来上がるまでのプロセスに、自分の仕事が関わっていくのがすごく面白そうだなと感じて、錦江町に来ました」

子実トウモロコシの畑

大隅半島では畜産が盛んです。たくさんの国産の牛・豚・鶏が毎日生産され、国産のお肉として日本中の食卓へ届けられています。一方で国産のお肉のほとんどが輸入の飼料に頼っている現状があります。大野さんが取り組まれているお仕事は、輸入に頼らず、大隅地域の豊かな自然や資源から餌を賄うことを目標としています。

国産の餌を自分たちで作る魅力や苦労
大野さんの会社では最終的にお肉になるところまで見据えて、作物を栽培されていらっしゃるそうです。周りに先駆者がいない中で取り組む、お仕事の楽しさや大変さはどんなところなのでしょうか。

「今やってることは大隅半島で誰もやっていないことです。国産飼料のエサだけで豚を育てるということを最終ゴールにしているのも、日本国内でほとんど行われていない取り組みなので、新しいことを自分たちで試行錯誤しながらやるっていうところは、すごく楽しいかな」

「苦労としては他の人がやってないってところですね。そもそも自分たちも農業自体を知らないから、ゼロからスタートっていうよりもマイナスからのスタートみたいな」

収穫物を運搬する様子。

「普通だったら、近くに先生がいるから、その人たちにすぐ聞くことができる。ゼロじゃなくてイチからスタートできますけど、僕たちの場合は、 まずやってみないとわからない仕事。しかも農業だから失敗した経験を活かしてリスタートできるのが1年先になるから、すごくリスクが高い。濃厚飼料を生産するプロジェクトも今年で4年目になるけどようやく会社になった気がします」

大隅のお肉の魅力を発信する
自らも農業従事者として作物を育てている大野さん。そのお仕事の傍ら大隅のお肉の魅力を県外へ発信することにも取り組まれていらっしゃいます。大隅の畜産農家さんと共に、東京で大隅のお肉の魅力を発信するイベントを開催した際に感じたことがあるようです。

「大隅半島の畜産物について話したことがあって。和牛オリンピックで優勝したら対外的にも大きく発信できるんだけど、そうでない人たちの発信は弱いよねと。大隅半島でこれだけ美味しい豚や牛を育てているのに、他の地域に上手く魅力を届けられていなくて。ブランディングや情報発信の力が足りてないなと感じています」

「逆に、ちょっとメディアに触れるだけでね、問い合わせが殺到して通販で1日に300万売り上げたりとか、ポテンシャルはすごくあると思っているんです」

東京で行われたイベントの様子

「いろんなイベントに出て、いろんな人に食べてもらって話して、『こんなに美味しいのに、今まで全然知らなかった』って声がほとんどだから。良いものを作るのは得意だけど、それに対する顧客価値の付け方とか、それを上手くお客さんに届けるみたいな、買ってもらったあとも、またそこで買いたくなるみたいなところが弱いのかなって感じてる」

「大隅の畜産農家さんは本当に良いものを作られているから、例えばイベントとかで他の地域の人たちに食べてもらったら、オンラインショップや百貨店で購入いただくことはそう難しくないと考えてますね」

完全な国産豚の生産に向けて
「今やろうとしてるのが、地域と共に作り上げる豚の純国産プロジェクトです。鹿屋農業高校と鹿児島大学の畜産学科の学生を主体に、他にも地域の企業にも参加してもらって全て国産の餌で豚・牛を育てるってことをやろうとしています」

特に鹿屋農業高校は、昨年の和牛甲子園で最優秀賞を取った際、和牛能力共進会の会長から飼料自給率の低さについて講演があったそうです。そのため餌を大隅の資源で賄いたいという意識があり、大野さんのお仕事と重なる部分が多かったため、このプロジェクトの参加をお願いをしたそうです。

鹿屋農業高校の学生へプロジェクトの概要を説明する様子

「学生と一緒に純国産のお肉を作るっていうのは情報発信力の観点でもすごく強いと思ってます。このプロジェクトを期に最終的には純国産のお肉を大隅地域のブランドとして全国に届けれるようになったら嬉しいです」


◎編集後記◎
大隅のスーパーに行くと美味しいお肉がこんな安価で売ってるの?と、驚くことがあります。消費者からすれば有難いことですが、一方で畜産農家側から考えると輸入飼料の価格高騰を卸価格へ転嫁しづらい状況です。一消費者として今までは畜産農家さんの経営について考える機会がありませんでしたが、私たちが美味しいお肉を手軽に食べられるのも畜産農家さんの企業努力のお陰なのだと改めて感じました。これからも美味しい大隅のお肉を食べるためにも、大野さんの国産飼料を生産・普及する取り組みを応援していければと思います。

取材・文 濱崎遥也