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【錦江しごと図鑑】美容業界からえのき農家へ。 石垣菜月さん

錦江しごと図鑑、12人目は田代地区にお住まいのきのこ農家である南九州きのこセンターの石垣菜月いしがきなつきさんです。

30歳目前までニューヨークで美容師をされていたという異色の経歴をお持ちの石垣さんですが、華やかに見える世界を離れ、なぜ錦江町の農家へ転身されたのでしょうか。その時々の想いと共にお伺いしました。

南九州きのこセンター

子供の頃から、学校が休みの日になるとご実家のお仕事をずっと手伝ってきた石垣さん。周りはサラリーマンの家の子が多く、休みの日に遊べないのがすごく嫌だったそうです。

その反動もあってか、福岡県内の専門学校でヘアセット&メイクを専門に学ばれた後、20歳の時に鹿児島でブライダルの世界に就職。日本の美容業界で働く中で、新たな目標として渡米の夢が膨らんでいったそうです。

「日本のブライダル業界の決まりで花嫁の着付けができるのは美容師免許を持ってる人だけ。当時、美容師免許を持っていなくて。それで社長に通信教育で美容師免許を取得したいんです、って相談したら、だめって言われたの!じゃあ、どうやったら美容師免許を取れるのかを考えていく中で、アメリカにいく選択肢も出てきました。そうなるともっとお金が必要だ!って」

結果として、会社を離職し、美容師免許の勉強のかたわらアルバイトで渡米の資金を溜める日々がはじまることに。一年のうち丸一日の休みが8日あるかないかの日々を過ごされたそうです。ちょっとすごい行動力です。

「なんだろう。ずっとやりたいと思っていたことがどうやったら実現できるか。行動が先に来ちゃいますね」

ニューヨーク時代の石垣さん

念願叶って2014年に単身渡ったのがニューヨークでした。

「ニューヨークは自由があって、きらびやかで遊び放題って感じで楽しかったです。反面、自由には責任が伴うことも学びました。自分の力で生き残ってきた本物の人たちが集まる場所」

「人に筋を通せず、痛い失敗も経験しましたが、最終的には美容業界で有名なサロンで働かせてもらいました」

トップスタイリストの中には1回で10万円もする美容師さんや、1ヶ月のチップ代が数百万円のカラーリストさんがいたそうです。大変な顔ぶれですが、29歳を目前に人生に色々と悩みも出てきたそうです。

「いつの日かビジネスとか経営がしたいと思っていました。でも、美容業界では経営はできない。どうしても技術に目がいってしまって気になっちゃう(笑)現場に出たくなっちゃいますね」

「あとは、アメリカに住んでいる時に感じていたのは、衣食住の大切さです。ニューヨークの野菜と比べて、故郷の田代の野菜の美味しさを思い出していました。インターネットのニュース記事などで日本の農家が減っていることも気がかりでしたし」

父親からかねてより実家の農業を手伝ってほしい、と誘われていたこともあり、渡米から2年で帰国を決断。2016年に田代に戻ってこられました。

栽培されているえのきの写真

15年ぶりの故郷で感じることもあったそう。

「田代地区は景色がすごくきれいでいつまでも飽きないんですよね。どんな季節でも、どんな天気でも、たとえ雨であっても、霧がかかっていてもきれい」

「あとは、みんないい人。みんな性格がとてもいい。でも、気になったのが、昔と比べてちっちゃい子供が少なくなってきていること。そして、近所の知ってたおばちゃんがちょっとずつ減ってきていること。あ、これやばいじゃん!って」

帰国後は実家のえのき農家を手伝うつもりだったそうですが、とある課題に直面します。

「この地域の農家さんって生産品の販売経路にすごく困っていたんです。農作物を作りはするけど、トラック1台分の生産量もないから販売に行くほどの労力はとてもかけられない」

「たまたまありがたいことにお店から産直品(※産地直送)の出品のお誘いの言葉もいただけて。えのきを出せるところが出来て、更に地域の農家さんのためになら!っていう思いで実家とは別に青果物を取り扱う会社を立ち上げる道を模索しました」

当初は周囲の同意をなかなか得られなかったようですが、周囲の農家さんへの地道な声かけを粘り強く続けられたようです。

「なんか負けたくなかったんですよね。昔から経営に携わりたかったこともありますし」

運よくビジネスパートナーにも巡り合い、農家とお店をつなぐための会社を2018年に設立。

えのきを使った使った産地直送の加工製品

「この4年間は本当に忙しかったですね。野菜の知識も、社会人としても無知でしたし、農家さんの勉強も必要でした。産直(※産地直送)運営をしながら加工品の開発と勉強をしていました」

えのきのチップスなどのお菓子も手がける

会社の業務が順調に回るようになってしばらくしてから運営を他のメンバーにお願いしたそうです。その後、リフレッシュを兼ねて東京で1年間過ごしたあと、2023年3月より正式に南九州きのこセンターで働くことに。

工場内では大量のえのきが栽培されている

豊富な経験値や経営に携わる、という夢をたいせつにして来られた石垣さん。ゆくゆくはこの会社をどのようにしていきたいのでしょうか。

「ここで働いてくれている人たちが安心して働きやすい環境を作りたいんですよね。ここで働いて良かったな、学びが多かったなって思ってもらえるのが理想です」

「結果として、錦江町の農業に少しでも助けになればいいな、と思いますね」

「本当にやりたいことは、やってみる。それで問題が出たらその時に考える。でも、意外となんとかなりますよね(笑)」

ホームページ 南九州きのこセンター


◎編集後記◎
心に決めたことはとことんやってみる。粘り強さと行動力がある石垣さん。
単身での渡米経験や、ビジネス立ち上げなど、すごい行動力ですが、その裏には、美容業界で働きたい、経営に携わりたい、など一貫した強い意思が感じられました。
壁に当たった時にも周囲からサポートが得られるのは、石垣さんのそんなまっすぐな性格だからなのかもしれませんね。